
「アサーション」とは、南アフリカ共和国の精神科医、ジョセフ・ウォルピに よって開発されたコミュニケーションの考え方と方法のことで、「自分のことも相手のことも大切にする」という基本的態度に立脚したうえで、「上手に自分の意見や気持ちを相手に伝える」ことを目指します。
皆さんは、本来ならばお願いして頼むべきことを、当然のように誰かに命令したり押しつけたりしていませんか? あるいは逆に、頼んでもいいことを頼まなかったり、断ってもいい場合に引き受けてしまったりしていないでしょうか。
どちらかに思い当たる節があるならば、ここからのアサーションをぜひ取り入れてみてください。きっと人間関係が今まで以上によくなり、イライラも少なくなるはずです。
3つのタイプの自己表現
アサーションの開発者・ウォルピは、人間関係における自己表現は、大きく3つにわけられると考えました。
1つ目は、自分のことは後回しにして他者を優先させる自己表現(非主張的自 己表現)、2つ目は、自分のことを優先し相手のことはあまり考えない自己表現 (攻撃的自己表現)です。この対照的な2つの自己表現に対し、3つ目はこれら の中間のほどよいバランスを保ったタイプで、自分のことをまず考えたうえで、 相手にも配慮する自己表現であり、これを「アサーティブな自己表現(アサーション)」といいます。
私たちは普段、相手や状況によってこれら3つの自己表現を使い分けているの が普通ですが、3つのうちどの割合が多いか、というところにその人の特徴が出るわけです。
①非主張的自己表現 (ノン・アサーティブ)
自分の気持ちや意見をいわず、あるいは自分を抑えてしまい、結果として相手のいうことを聞き入れてしまったりする場合の自己表現です。
ここには、曖昧な表現や消極的な態度も含まれます。一見、控えめで相手のこ とを尊重する態度にも映りますが、常に本心を抑え込んでいるため自分に自信が持てず、また都合よく頼りにされてしまいがちなため、相手に対して内心怒りや卑屈さを抱いていることもあります。
何かのきっかけでそれを爆発させてしまった場合、たとえそれが本人にとっては溜まった怒りを素直に出したのだとしても、相手からは「突然キレて八つ当たりしている」など、不当な評価を受けることになってしまいます。 一方で、溜まった怒りを表に出すことなくひたすら耐えるようなタイプでは、次第にストレスが溜まり疲弊してしまい、メンタルのバランスを崩してしまう場合もあります。
②攻撃的自己表現 (アグレッシブ)
相手の立場や気持ちをあまり考えず、自分の言い分を押し通してしまうような場合の自己表現です。例えば、「命令する」「押しつける」「怒鳴りつける」「言い負かす」などは典型的な攻撃的自己表現です。
ここで注意したいのは、おだやかに自分の意見を述べているようなときや、女性が甘えるような態度でいるときでも、もし相手を自分の思い通りに操作すると したら、それは攻撃的自己表現にあたる、ということです。
攻撃的自己表現をするタイプの人は、自分の意見が通って気分よい日々を送れそうですが、本人が自分の強引さに後味の悪い思いをしたり、次第に相手から敬遠され孤立していくことになります。
権力がある立場の人、知識や経験が豊富な人、役職や年齢が上の人は、このような攻撃的自己表現を無意識的にしてしまいがちだといわれています。部下や立場の弱い人、子供などに対して、攻撃的自己表現を向けやすくなります。
③アサーティブな自己表現 (アサーション)
前の2つの自己表現とは異なり、自分のことも相手のことも大切にしながら、 上手に自分の意見や気持ちを相手に伝える表現方法です。自分の気持ちや考えを 相手の立場を考慮しながら素直に表現することで、それが相手にも伝わり、たとえ相手と意見が異なったとしても、その後お互いの立場を考えながら建設的に話し合いができることになります。
どのような立場にある人でも、こうしたアサーティブな自己表現は、人間関係を円滑にするうえでとても大切な技術です。アサーティブな自己表現をするうえで大事なのは、相手に伝える前に、まずは自分の考えや気持ちを捉えること、伝えたら相手の反応を受けとめようとすること、です。
アサーションが上手になるための簡単な3つのステップ

〈第1ステップ〉自分の気持ちを確かめる
自分を表現するためには、まず自分の気持ちや意見を明確にする必要があります。この作業は得てしておろそかにされがちで、そうなればその後の表現もうまくいきません。ですので、まずは自分の気持ちに耳を傾ける時間を意識的に取るようにします。慣れてくればこのステップにかかる時間は次第に短縮されます。
ここで大切なのは、この作業は自分の考えを白黒はっきりさせることではない、 という点です。今は白黒はっきりせず、グレーの状態であるならば、グレーであるということを自分で確認できていることが大事です。
〈第2ステップ〉素直に言葉にしてみる
第1ステップで確認した自分の思いや意見を、なるべく正直に、自分の言葉で 伝えるようにします。自分の気持ちがグレーの状態であるならば、もちろんそれを伝えてもかまいません。
ここでのポイントは、相手の立場や考えを配慮する言葉を交えながら、きちん と「私」を主語にして表現することです。
〈第3ステップ〉見届ける
「自分の思いや意見が、相手にどう受けとめられたかを見届けるステップです。 このステップを踏まないと、単に自分の思いを表現しただけで終わってしまう可能性もあります。
当然相手にも、自分と同じように確認し表現するプロセスがありますから、会 話を通してそれを見届けて初めて、アサーティブなコミュニケーションが成り立ちます。
ここに挙げた3つのステップは、実際にイライラや怒りを感じたときの対応に も応用できます。第1ステップを応用して、イライラや怒りの感情に気づく過程とします。
実はイライラや怒りのさなかにいるときには、自分が「なぜ」「どうして」「何 に対して」イライラしているのか、正しく捉えられていないことが多いのです。
例えば、皆さんは会社でのイライラや怒りを家庭に持ち込んでしまい、つい家族にその矛先を向けてしまって気まずい思いをしたことはありませんでしょうか。 第1ステップを経ることで、イライラや怒りの感情に気づきながら、その理由や対象を明確にすると余計なトラブルを避けられます。
第1ステップを踏んでなお、相手に自分の思いをすぐに伝える必要を感じたならば、先の第2、第3ステップに進みます。もし自分の思いをすぐには伝えるべきでないと判断したら、先に紹介したリラクセーション法などでクールダウンします。そして、少し時間を置いて冷静になったうえでも、やはり自分の思いを伝えるべきだと考えるならば、同様に第2、第3ステップに進みます。 このように、アサーションは対人コミュニケーションを円滑にするうえで大いに役立つ方法です。最初はなかなか慣れないかも知れませんが、こうした考え方 や表現の仕方を身につける過程で、常に相手のことを思いやるという、人として大切な気持ちを育むことにもなりますので、ぜひ日常生活の中に取り入れていただければと思います。