
ビタミンB群は不足しやすい
ここでもう一度、図6をご覧ください。すでにみてきたように神経伝達物質はタンパク質から作られますが、その合成過程にはビタミンB6や葉酸などのビタミン類が補酵素として必須であり、この意味からビタミン類は私たちの感情にも大きく関わっているといえます。
中でも葉酸は、うつ病との関連がかなり明確になっています。血液中の葉酸濃 度が低いとうつ病リスクが高まることや、葉酸の摂取量が少ない場合にもうつ病 のリスクが高まることなどが明らかにされています。葉酸の必要量は年齢や性別により異なりますが、葉酸を特に必要とする妊婦の場合では、おおよそ1日当たり400マイクログラムといわれ、最近では一般にもこの量が推奨される傾向にあります。
これを食事から摂取しようとすると、比較的葉酸を多く含んでいる緑黄色野菜 であるホウレン草であっても、1日に2束以上摂らないと追いつかない計算にな ります。さらに葉酸は、生まれもった遺伝子がその代謝に大きな影響を及ぼしま す。詳しくは述べませんが、葉酸の不足は、ホモシステインというアミノ酸を増 やすことで動脈硬化の原因となるばかりでなく、「メチレーション」といわれる 生体にとって極めて重要な反応にも関わっているため、体調にさまざまな影響を及ぼします。
ミネラルの重要性と不足の原因
出産後の女性はうつ病にかかりやすいということをご存知でしょうか。 これは「産後うつ病」と呼ばれ、ホルモンバランスの乱れや育児に伴う睡眠不足など、原因はさまざまですが、出産に伴う出血によりミネラルの一種である鉄が不足することが産後うつ病に関わっている、という研究が多数あります。
実際、産後の女性に限らず、鉄が欠乏すると、易疲労感、焦燥感、イライラ、集中力の低下など、うつ病様の症状が生じることが知られています。鉄欠乏につ いては、血清鉄の数値には異常がない「潜在性鉄欠乏」状態があり、その場合に はフェリチンという貯蔵鉄について評価する必要があります。 また、鉄欠乏性貧血には、「ヘリコバクターピロリ菌(以下、ピロリ菌)」感染が関わっている場合があります。ピロリ菌の感染により、胃粘膜が萎縮すること で胃酸分泌が低下し鉄の吸収障害が起きたり、ピロリ菌自体が鉄を奪ってしまう 可能性などが指摘されています。
鉄分には、動物性の食品に多く含まれるヘム鉄と、豆類や野菜に多く含まれる 非ヘム鉄とがありますが、体内への吸収率に違いがあり、ヘム鉄は10~30%、非 ヘム鉄では5%以下といわれます。ですので、食品から摂る場合には、より吸収 されやすいヘム鉄を含む動物性の食品が効率的です。
また、亜鉛は約300種類の酵素反応に関わっており、生殖機能やホルモンの合成、インスリンの分泌調整などに関連する非常に重要なミネラルです。
不足によって抑うつやイライラなどの情緒不安定、食欲不振、味覚障害、性欲 減退、皮膚炎、耐糖能異常などが起こり得ます。爪に白い斑点ができることも亜 鉛不足に特徴的な症状ですので、ときどき爪をチェックしてみるとよいでしょう。 その他のミネラルについては、医学的な評価がまだ確定していないものの、カルシウム、マグネシウム、銅、ヨウ素、セレニウムなどとうつ病との関連が指摘されています。玄米が注目されている理由として、これらビタミンやミネラルを 豊富に含んでいることも挙げられます。

ミネラルを含む食事をしているのに、ミネラル不足になる
これまでミネラル不足についてみてきましたが、ミネラルがなぜ不足してしまうのか、その背景をきちんと把握することが大事です。
例えば、十分量のミネラルを含む食事をしているはずなのにミネラル不足になってしまう場合、食べものの消化・吸収の過程に問題がある可能性にも目を向 ける必要があります。
具体的には、先述の「SIBO」などの状態が背景にあると、バクテリアにこれらのミネラルを奪われてしまっている場合がありますので、ただ単に足りていないから補う、ということではなく、原因の解明と対策が必要になるわけです。
先には述べませんでしたが、SIBOの原因のひとつに胃酸の分泌不足があります。胃酸は非常に酸度の高い液体であり、それ自体が強い静菌作用を持ってい るので、胃酸の分泌が少ないと細菌が繁殖する要因となります。
また、タンパク質を分解する代表的な酵素である「ペプシン」は、もともと 「ペプシノーゲン」という形で分泌されますが、それが塩酸(胃酸)によってペ プ シンに変わることでタンパク質を分解する作用を示します。
ですので、胃酸の分泌が少ないと、タンパク質が未消化のまま小腸に届くことになり、これがバクテリアのエサになってしまうことになります。
これは実際にあった例ですが、栄養指導として間食には甘いものを控え、タンパク質とオメガ3を豊富に含んでいるナッツ類を摂取することを医療従事者から すすめられていた患者さんがいらっしゃいました。 もちろん発想は間違っていないのですが、この患者さんには胃酸の分泌不足があったため、そうした場合、このようなアプローチはSIBOを増悪させてしまう可能性があります。
健康診断ではまったく問題がないにも関わらず、いつも胃腸の調子が悪い、便秘や下痢を繰り返す、腹部膨満感が続く、疲れが取れない、常にイライラする、 頭痛や肩こりがひどい、などの症状がみられる場合には、栄養療法に詳しい医療機関を受診してみるのもよいでしょう。
ここで、自分でできる簡単なSIBOの予防方法をお伝えします。GI値のところでも述べましたが、その方法とは「咀嚼」です。食べものをしっかり噛むことで、たとえ胃酸の分泌が少なかったとしても、未消化のまま小腸に届いてしまう確率は減ります。
また咀嚼により唾液がより多く出ますが、「唾液アミラーゼ (プチアリン)」は 炭水化物、特にでんぷんを分解する酵素です。これにより消化・分解の過程が円 滑に進むことにも同様の意味があります。
ほかにも、咀嚼によって脳血流が増すことや、酸化ストレスが軽減すること、 さらにはリラクセーション効果があることもわかっており、咀嚼は一石二鳥どこ ろか、一石五鳥くらいの効能があることになります。
私はみなさんに、食べものを口に入れたら、もう噛むところがないという状態にまで咀嚼することを目指すようにおすすめしています。必然的に食べる時間は長くなりますが、それがまた血糖値をゆるやかに上昇させることに貢献します。 今日からできる確実な健康法として、ぜひ咀嚼を取り入れてください。
