
私たちは普段特に意識しなくとも自然に呼吸をしていますが、その一方で意識的に呼吸を速くしたり遅くしたり、あるいは一時的に止めたりすることができます。
これは呼吸筋が、他の骨格筋と同様、大脳皮質の運動野から随意的に支配されている一方で、延髄(脳幹)により不随意的にも支配されている、つまり異なる神経系によって二重に支配されているためです。このことから、呼吸には意識と無意識を橋渡しする重要な役割があるとも考えられます。
さて、マインドフルネスでは呼吸に意識を向けることをとても重視します。当然のことですが、3分前の呼吸や5分後の呼吸を意識することはできません。呼吸に意識を向ける場合、必然的に今の呼吸を対象とすることになります。このように、呼吸を意識することは、今に意識を向けることに直結します。
呼吸に意識を向ける瞑想は「今この瞬間に意識を向けて、余分な思考や感情を入れずに現実をありのままの状態として認識する」というマインドフルネスの考え方に基づき、ストレスを低減することができます。
■①初めのうちは瞑想のための環境作りが大事です。なるべく落ち着いて静かに過ごせる空間と時間を確保し、リラックスできる服装で臨みましょう。慣れてくれば、環境や時間に左右されず、いつでもどこでもできるようになってきます。
■②次に姿勢ですが、腰が丸くならないよう、骨盤を前傾し腰を立てるようにします。お尻を後ろに引き、下腹を前に出すような感じです。慣れてくると、こうすることで自然に丹田のあたりが充実した感覚になります。
一方で肩の力はなるべく抜いてリラックスします。ちなみにこのような状態を武術では「上虚下実」といって重視します。座禅の場合には、結跏咲坐(けっかふざ/右足を 左大腿の上に載せ、左足を右大腿の上に載せる)・半跏咲坐(はんかふざ/一方のみ)・日本坐 (正坐)が推奨されますが、このような姿勢がキープできれば、あぐらでも問題ありません。 むしろ伝統的なヨガの坐法・スカアーサナは、あぐらに近い座り方です。いずれの場合も、座蒲という座具や、座布団を折りたたむなどしてお尻の下に敷くことで、腰が立ちやすくなります。あごは軽く引いて、背中が丸くならないようにします。どっしり安定した土台から背骨が樹木のように伸びているようなイメージです。
手は下腹部の前で組むか、両膝の上に載せます。一般的には手のひらが上を向くようにしますが、自分がやりやすいやり方で結構です。目は軽く閉じるか、半 眼でもかまいません。イスに座って行う場合も注意点は同様ですが、やや浅めに腰掛けて、背もたれは使わないようにします。
■③まず体の中の空気を全部出すようなつもりで吐ききり、それから大きく吸い込みます。これを2~3回行った後は自然の呼吸に任せます。特に鼻閉などがない限り、鼻から吸って鼻から吐くようにします。 ここで初めに、禅の修養法のひとつである数息観を少々アレンジしたやり方を紹介します。
これは呼吸の回数をただ数えるという極めてシンプルな方法ですが、非常に奥の深い修養法です。具体的には、吸う息と吐く息とを合わせて、それを一、二、 三、と数えていき、十まで数えたらまた一に戻ります。最初の入息を「イー」、 出息を「チー」、次の入息を「ニー」、出息を「イー」という具合に数えます。
人によっては、出息を先にした方がやりやすい場合もありますので、どちらでもかまいません。これを、以下の2つの条件を守るように行います。
・雑念を交えないこと
やってみるとわかりますが、これはいずれもとても難しい条件です。「お腹が空いてきたな、今日の晩ご飯は何だろう」といった些細なことから、仕事で気に なっていることなど、次から次に雑念が沸き起こってきます。 また、そんなときは往々にしていくつまで数えたかわからなくなってしまうものです。そうなったら、また数のカウントを一に戻してやりなおします。ここで大事なことは、雑念を悪者にしないということです。
実はこの2つの守るべき条件というのは、もともと守れないようなことなのです。雑念は、今やるべきこと(ここでは数を数えるということ)に戻るための気づき、と捉えます。
雑念が生じた際に、「自分は何て集中力がないんだ」などと卑下することはまったくありません。むしろ雑念が生じたことに気づけた自分を褒めてあげましょう。そのうえで、簡単に「雑念、雑念」と唱えることで気づきの証しとして、すぐさま呼吸の回数を数えるという本来やるべきことに戻ります。
この「気づいては戻る、気づいては戻る」という繰り返しこそが、マインドフルネスではとても重要な過程になっています。

■④数息観に慣れてきたら、呼吸そのものを観察するようにします。自然な呼吸に対して、ヴィパッサナー瞑想の1つ目と3つ目の原則、「実況中継」と「身体感覚の変化を感じる」をやってみます。息を吸っているときには「(お腹が)膨らんでいる、膨らんでいる」と、息を吐いているときには「縮んでいる、縮んでいる」と実況中継しながら、膨らんでいる感覚、縮んでいる感覚を感じてみます。
ここでもさまざまな雑念が生じてきますが、同様に「雑念、雑念」と気づきを入れて、呼吸を観察するという今やるべきことに戻ります。慣れないうちは、な るべく深い呼吸をしようとか、ゆっくり呼吸しようというように、呼吸を自分で制御しようと意識しすぎてしまうことで、かえって息苦しく感じることがあり ます。
実際に「苦しくて続けられそうにありません」とか「かえってパニックになりそうです」といった声を聞くことがありますが、そんな場合には いったん別のもの、例えば聞こえてくる音などに意識を向けてみるようにします。そうしているうちに、当然ですが自分で意識したり制御しようと思わなくても、呼吸は自然にちゃんとできている、という事実に改めて気づけるはずですので、「ああ、大丈夫なんだ」と安心して、もう一度その自然な呼吸の観察に戻るようにします。
あるいは、最初のうちは苦しいと感じたらいったん目を開けて瞑想を中断し、少し体を動かしてリラックスしてから再開するようにしてもかまいません。その 場合も、その動作の過程をマインドフルに、身体感覚に意識を向けて行います。
■⑤呼吸を観察する際には、鼻を通して入ってくる、あるいは流れ出る息の感覚に意識を向ける方法もあります。意識を向ける対象が変わるだけで、やり方は基本的に同様です。
また、言葉での表現が難しいのですが、喉のあたりをやや締めるようにしながら、呼気あるいは吸気でこするようにして寝息のような音を鳴らすウッジャイと いうヨガの呼吸法があります。このウッジャイ呼吸を行うときの喉の感覚や音に集中するのもよい方法です。
■⑥瞑想をする時間は、最初は5分程度から始めてみて、慣れてきたら徐々に時間を延ばしていくとよいでしょう。一定の時間、呼吸に意識を向ける瞑想をしたら、少しの時間でいいのでそれを振り返ってみます。 自分なりの簡単なチェックリストを作ってみて、瞑想の前後でそれらがどう変化したか、どの程度変化したか、など気づいたことを記録してみます。もちろん、それが瞑想を行ううえでのハードルを高めてしまうようであれば、簡単に頭の中で振り返るだけでも十分です。
繰り返しになりますが、呼吸に意識を向ける瞑想は「今この瞬間に意識を向けて、余分な思考や感情を入れずに現実をありのままの状態として認識する」というマインドフルネスの考え方に基づき、ストレスを低減することができます。