
ここではイライラへの対処法・予防法としてお伝えします。 思考と気分 (感情) を区別するには、「自動思考」「スキーマ」「感情」の流れを念頭に置いたうえで段階的に取り組む必要があります。
- ステップ1「感情と思考を区別し、感情を数値化する」
- ステップ2「認知のゆがみに気づく」
- ステップ3「自動思考の思い直し」
- ステップ4「別の考えはできないか探る(根拠と反証)」
ステップ1「感情と思考を区別し、感情を数値化する」
まずは、感情と思考とを区別してみましょう。簡単な例題を挙げてみます。 以下のQ1からQ7は、感情と思考のいずれでしょうか。
Q2.また失敗しそうだ
Q3.悲しい
Q4.仕事は完璧にこなすべきだ
Q5.不安だ
Q6.自分は取り柄のない人間だ
Q7. 腹が立つ
Q1、3、5、7は感情、Q2、4、6は思考です。簡単すぎましたか? でも実際に自分のこととなるとわかりにくいものですし、混乱のさなかにあってはなおさらです。このように、感情は「悲しい」「不安だ」などのように一言で表すことができますが、思考は文章形式になります。
一度、自分が陥りやすい思考と感情を、思いつく限り書き出してみるとよいでしょう。特に感情を表す言葉については、自分なりのリストを作ってみてください。その際、ネガティブな感情だけでなく、ポジティブな感情も思いつく限り書き出してみます。そして、イライラするときには、ほかにどんな感情が交ざって いるか、その都度確認するようにしてみるのです。例えば不安、悲しみ、恥ずかしさ、憂うつ、恐れなど、むしろ複数の感情が同時に起こっている場合の方が多いことに気づくでしょう。
このような作業を通すことで感情と一定の距離を取り、感情を客観的にみる習 慣が身につきます。リスト化した感情を表す言葉は、自分だけの宝物になります。
■感情を数値化する
さて、感情と思考を区別したら、今度は感情を点数化してみます。先に紹介したNRSを使ってみましょう。
例えば、イライラするようなできごとがあったときに、「もう最悪。イライラ度は......この前に比べるとちょっと少ないから、7くらいかな」という具合です。
このように数値化するだけでも、それがイライラという感情を客観視することに繋がるため、意外に落ち着いたりするものです。
あるいはここでいったん深呼吸してから再評価してみると、数値が下がるかも 知れません。これをイライラに限らず、さまざまな感情に対して使ってみることによって、感情を客観視するだけでなく、一呼吸置くことで冷静になりやすくなります。
ステップ2「認知のゆがみに気づく」
「事実をありのままみる」ことは、私たちにとって想像以上に難しいことです。 多かれ少なかれ、私たちは事実に対して「誤った推論」をしてしまい、それによってゆがんだ自動思考が浮かんでしまうわけです。認知療法の開発者であるベック博士によると、この推論の誤りは10種類にわけられます。認知のゆがみに気づくために、ここからいくつか代表的な推論の誤りについてみていきましょう。
■オール・オア・ナッシング(白黒思考)
「完璧にできないなら、失敗したのと同じだ」というような、二者択一的な思考のことです。人は追い詰められて心のゆとりがなくなると、このような二者択一 的な思考パターンに陥りやすく、その最たる例が、「生きていてもちっともいいことがない、いっそのこと死んだ方がましだ」というような場合です。
本来、世の中の多くの問題は白黒はっきりできないことの方が多いはずで、こうした現実と白黒思考のギャップはストレスになりますし、イライラの原因にもなります。
■一般化のしすぎ
「自分は何をやってもうまくいかない」というように、たったひとつでもよくないことがあると、「いつも」「何をやっても」「必ず」などと、すべてのことに通ずるかのように考えてしまうことを「一般化のしすぎ」といいます。
このような推論の誤りがあると、本当はよいこともたくさんあるのに、いつも嫌な体験をしてしまっているような錯覚に陥りやすく、気分も憂うつになってきます。
■結論の飛躍
「話の最中にあくびをした。きっと自分を馬鹿にしているに違いない」というように、あるできごとに対して、何の根拠もないのに自分にとって不利で悲観的な結論を出してしまうことを「結論の飛躍」といいます。
例として挙げたようなケースでは、当然怒りやイライラの感情が沸き起こることになります。
■すべき思考
「部下は上司のいうことを素直に聞くべきだ」という場合のように、ものごとに 対して「~すべきだ」「~でなければならない」あるいは逆に「~すべきでない」 と考えてしまう思考パターンが「すべき思考」です。
このような認知のゆがみを強く持っている場合には、例えば部下が少しでも自分の意見をいおうものなら、ついイライラしたり怒りが湧いてきたりするでしょう。自分で考えた基準を相手に当てはめることで、相手を追い込んだりしてしまうことにもなるため、職場での人間関係のトラブルの原因として比較的多いと推察されます。
■レッテル貼り
「自分は能力のない人間だ」というように、自分に対して極端な決めつけをしてしまうのが「レッテル貼り」です。また、他者の欠点を一般化して何らかのレッテルを貼ってしまうこともあります。
この場合、相手がそのレッテルとは違った行動・言動をした際にはイライラや怒りを感じたりすることもあります。これは後に述べる対人関係療法では、「役割期待から外れた」ということで理解できます。

ステップ3「自動思考の思い直し」
自動思考とそれに続いて起こる感情の渦に巻き込まれないために、とても大事なことがあります。それは、自動思考として浮かんだ考えは、自分の誤った信念 (スキーマ)による思い込みである可能性がある、と思い直すことです。
最初に、挨拶を返さなかった上司に対して「自分のことを過小評価している」 という自動思考が浮かんでイライラしてしまう例をみましたが、「自分のことを過小評価している」と一瞬思ったけれども、もしかするとそれはスキーマによる思い込みかも知れないと思い直す、というステップを踏むわけです。
自動思考は、ほぼ瞬間的に起こりますので、それをそのときに制御しようと思っても無理な話です。そうではなくて、これは思い込みかも知れないと思い直し、感情の渦に巻き込まれずに踏みとどまることが大事です。
ステップ4「別の考えはできないか探る」
感情の渦に巻き込まれずに踏みとどまれたら、次に別の考えはできないか探ってみます。正式なやり方としては、自動思考が事実であるという根拠と、自動思考が事実でないことを示す反証を、それぞれ客観的な事実をもとに書き出す作業を行いますが、ここではより簡便な方法で探ってみましょう。
①本当にそれが真実か自問し、他の考えがないか思い直してみる
「例えば「話の最中にあくびをした。きっと自分を馬鹿にしているに違いない」という場合には、「本当にそうか?もしかすると昨夜はあまり寝ていなかっただけではないか?」と問い、「確かに眠そうな顔をしていた。自分が決めつけてしまっていただけかも知れない」と思い直します。ここで大事なのは、このように「ほかにも考え方がある」 ということに気づくことです。
②自分にとって大切な人が同じ悩みを抱えているとして、その人にアドバイス してあげると考える
例えば「完璧にできないなら、失敗したのと同じだ」という場合には、大切な人にアドバイスすることを想像してみると、「そもそも世の中に完璧なものなど存在しないのでは?」 「試験だって8点あれば合格点。それでいいのでは?」 という具合に、普段自分に対してはなかなか出てこないような回答が自然に出てきたりします。
さて、先に正式なやり方では自動思考の根拠と反証を挙げるということを述べましたが、認知行動療法においてこの両方から考えてみるという視点は大事です。 「自分はこう思う」という主観ではなく、できるだけ客観的事実をもとに、自動思考に至った「根拠」と、その自動思考が事実とは異なることを示す「反証」を 挙げてみて、合理的な別の考え方(適応的思考)を導いていくのです。
このように、無理に自分の考えを改めようとするのではなく、別の考え方はないか、という視点で探っていく態度が大切です。
>「スキーマ」「自動思考」「認知行動療法」